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般若心経の心〔5〕


般若〔智慧〕の章の二回目になります。「舎利子、是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減、」

舎利子よ、この諸法は空相であり、生ぜず滅せず、垢つかず浄からず、増さず減らずという直訳になります。

特徴的なのは観音様が舎利子に二回目の呼びかけをします。そして否定文を連続して使うことにより、
心理効果を上げています。

つまり、六つの不を使っていますが、最初の生と滅を補足する形となり「すべてのものは実体がない」という
「空」の思想に落ち着くのです。

最近定年近くになって出家する人が増えました。実際のところは厳しい修行に体力が持たず、途中で断念
されている人も多いようです。

数年前私の寺にも老僧のお弟子さんとして、短期間ではありましたが修行に来られた方がいます。
六十五歳にしては若くみえたのですが本人は相当しんどいようでした。

その時に「どうしてこの道に入ろうと思われたのですか」と質問しますとこんな答えがかえってきたことを
覚えています。

「今までヤクザな商売してきたんです。何人も人を騙し傷つけたりしてきました。この年になってやっと
もうええかなと思うようになったんです。」

そして「子供も独立して、家内とも離婚同然で別居しているんです。一人になってから自分の人生を
振り返ると空しくなってきたんですわ。」と話を聞きながら、手首のロレックスの高級時計が気になりました。

また日頃から「あんたのような人はきっと地獄に落ちる」と奥さんから言われ続けていたことも頭の中に
いつも残っていていたそうです。

そんな話を聞いていて私は「この人ほんまにヤクザやったんかな。」と不安になってきました。
それで思い切って「何の職業についておられたのですか。」と聞いてみたのです。

職業は不動産業と聞いて納得しました。取立てをされていたそうです。確かに顔はすごみのあるちよっと
こわい感じがします。

しかし、話し込んでみると人懐っこい包容力のある人です。「仏様に帰依したい」と言われる顔はキラキラと
輝いていました。

そして「今まで娘も家内もわしんとこには近寄って来もせんかったけど、これで一回ぐらいはきてくれるかな」
と冗談まじりに言われるその顔はほんとに嬉しそうでした。

そんな話をして二週間余りたった時、突然体調を崩して神戸の自宅へ帰られたのです。「不垢不浄」の境地
を志して頑張っておられたので、残念でなりません。

さらにそれから三ヶ月ぐらいたって私の寺へ奥さんが尋ねてこられました。突然の訪問にどうしたのだろうと
思っていましたら、「実は主人が先月亡くなったんです。」と言われたのです。

青天の霹靂です。何ということでしょうか。奥さんのところに死ぬ前日に病院から電話があって、駆けつけた
ときにはもう意識はなかったそうです。

「肺炎でした。」と言われる奥さんの声に、何とも言えぬ悲しみが込み上げ思わず涙ぐんでしまいました。

こんな容で「不生不滅」の空間へ旅立たれるとは夢にも思いませんでした。ほんとうに無常なことです。
ここに心から冥福を祈りたいと思います。そしてKさんの志しがきっと良い縁となって輪廻することを堅く信じます。
   
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